2016年7月からパプアニューギニア国(PNG)の生物多様性保全プロジェクトに自然環境管理専門家として参加し、海洋保護区を設立するための活動をしています。プロジェクトがあと3カ月で終了となりますので、今日は、プロジェクトの成果の一部をご紹介したいと思います。
PNGは、カンガルーや極楽鳥に代表されるように、独特で豊かな生物多様性をもっています。しかしながら政府機関や地域住民の連携が弱いことから、貴重な自然生態系の保全活動が機能していません。このような状況下で2013年にPNG政府は我が国に対して、生物多様性保全のための技術協力を要請しました。その要請を受けて国際協力機構は、2015年6月からPNG保護区政策に則った保護区管理能力強化プロジェクトを開始しました。
私の担当する活動は、2014年に環境公社が発表したPNG保護区政策に基づいて「新たな海洋保護区の設立制度の構築」することでした。
まず、対象海域で海洋生物生息地調査や、関係者からの聞き取りを行い、海洋保護区設立のためのロードマップを作成しました。ロードマップ作成の過程で、プロジェクト対象海域を首都ポートモレスビーから車で30分程度の距離にあるブーツレス湾を選び出しました。
次にブーツレス湾の関係者に呼びかけて、環境保全に関する情報交換や意見交換をするネットワーク(Bootless Bay Marine Conservation Initiative, BBMCI)を設立しました。BBMCIには、これまでに21のグループ(政府機関、県庁、市役所、地方コミュニティーグループ、大学、NGO、民間企業、土地所有者、キリスト教団体、開発業者)が参加しています。そしてBBMCIに所属する土地所有者(大学、県庁、農場、キリスト教団体)と、プロジェクトのカウンターパート機関であるPNG環境公社との間で保護区設立に関する覚書を交わす支援をしました。
次に各土地所有者と保護区設立のための作業部会を立ち上げて、業務計画作成、土地登記簿確認、土地のゾーニング、啓蒙・広報活動を行いました。そしてPNGの法律に基づいた保護区を設立するために保護地役権(conservation easement)の書類を作成しました。保護地役権の書類は、国の弁護士の承認を受けた後、2020年8月20日に土地所有者とPNG環境公社によって署名されました。保護地役権署名式の様子は、PNGの有力紙の記事にもありました。
私の担当する活動の目標は、「新たな海洋保護区の設立制度の構築」することでしたが、その目標を超えて新規の海洋保護区設立を達成することができました。この海洋保護区は、PNG環境公社が初めて行った新規保護区の制度設計の事例であり、またPNG環境公社が主体となって初めて設立した保護区でもあります。この事例は、PNG全国に適用可能であり、PNGの生物多様性保全の取り組みにとって大変意義のあるものだと考えています。プロジェクト関係者の皆様、土地所有者の方々、ご協力いただき有難うございました。
2020年9月15日 自然環境部 長濱 幸生